Words by Yuto Suzuki
トニーアダムズのブロック、デニス・ベルカンプの洗練されたスキル、ティエリ・アンリが決めてきた数多のゴール。アーセナルの元本拠地であるハイバリーと共に刻まれてきた93年間の歴史は、725戸の住宅が集う「ハイバリースクエア」として現在も受け継がれています。
ハイバリー・スクエアは、数々の賞を受賞した高密度の住宅開発プロジェクト。アーセナルFCの心の拠り所として、また93年のフットボールの歴史に敬意を表して、725戸の住宅が旧ハイバリーに建っています。
元々アーセナルは、ハイバリーの将来的な拡張を考えていましたが、東スタンドがイギリスの指定建造物に登録されていることや、スタジアムの四方が住宅で囲まれていたため、計画は失敗に終わります。
1999年11月、チケット収入の減少もあり、より大きな収容力を持つエミレーツ・スタジアムに移転することを決定しましたが、その際に問題となったのは歴史的なホームスタジアムをどうするか。ハイバリーは、93年の歴史を誇るフットボールクラブの本拠地として重要であるだけでなく、主に住宅地であるこの地域においても重要な存在であることが注目されていました。
というのも、ハイバリーはロンドンが緊急に必要としていた新しい住宅の再開発に適した場所であると考えられていたのです。
ですが前述した通り、世界で初めて建設されたフットボール専用スタンドのひとつである1930年代のアールデコ調の東スタンドは、イギリス指定建造物グレードIIに指定されているため、この計画はスタンドと歴史的建造物を保護しつつ、スタンドとピッチの開発をしていくことが求められていました。(イギリス指定建造物にはハイバリーの他、フラムFC のクレイブンコテージは ジョニーヘインズスタンドが世界最古のスタンドとして登録されています)
Embed from Getty Images
そうして作られた計画が、東側スタンドと西側スタンドの両方を保持しつつ改造して住宅用に使用し、敷地の残りの部分を新しい住宅用のアパートブロックで再開発することで、ピッチ部分を共用の庭に変えるというものでした。
ジョージア王朝時代のロンドンの広場のように、建物群がフォーマルな庭園を囲み、敷地内に導入された新たな公共道路がアベネル・ロードとハイバリー・ヒルを結んでいるため、日中は誰でもこの重要な遺産へのアクセスが可能になっています。
二世帯住宅、三世帯住宅、ペントハウスなど、さまざまなタイプの住宅が25棟以上建設されている「ハイバリー・スクエア」
建物のデザインはそれぞれ異なりますが、最も大きな建物である集合住宅は、庭に面した部分は主にガラス張り、通りに面した部分はレンガのファサードに。一方、敷地周辺に建つ小規模な建物は、白い壁で覆われており、よりカジュアルなデザインとなっていることが、動画からも見て取れます。
アーセナルファンでなくとも、このような”粋”な住まいで過ごすことは、フットボールファンであれば誰しも憧れることは間違いありません。
「ここに住むと歴史の一部になったような気がする」と女性が話すように、ハイバリーと共に刻まれてきた93年間の歴史は、この「ハイバリースクエア」と住民を通じて今後も受け継がれています。
重要なのは人々の記憶を維持すること、そして何よりスタジアムの持続可能な未来を築くことです。