ゴールに向かって生きろ。川がいつかは海に流れ込むように、誰もが目的地に向かって歩んでいる。私たちはその目的地のことを「ゴール」と呼ぶ。
自分だけのゴールを追求しようがしまいが、あるいは宿命などを感じて直感に従っていたとしても、私たちはどこかに向かって歩いている。道半ばで諦める者もいれば、別の道に歩み始める者もいる。そして目的地を目の前にしながら、座って冷たいビールを楽しむ者もいるのだ。また、自分が進むべき道を探すこともせずに不満ばかり口にする者であっても、どこかに向かっていることに変わりはない(ハイデガーは、私たちは少なくとも「次に死ぬ人」にはなれると語っている!)。
周囲の人間が、順調にゴールに向かっているように見えるかもしれない。しかし私たちは、鏡に映った現実を直視することで、そんな穏やかな人生はおとぎ話の中でしかあり得ないことを知っている。私たちの人生には、上り坂か下り坂しか存在しない。そして私たちは、上り坂では息を切らしながら上を目指し、下り坂では頂点に達したささいな喜びを感じる暇もなく、上り坂で得た筋肉痛に苦しむのだ。あなたが今日感じる人生の厳しさは、結局のところ歩く道の傾斜と、肩に乗った重荷によって形成された重力の総和であると言えよう。重力は全人類に等しく働く。金持ちの家族であっても、あなたのガールフレンドにコソコソとダイレクトメールを送ってくるような輩でも、重力を感じずにはいられない。だから心配はいらない。この地球で苦しみを抱いているのは、決してあなたひとりではないのだ。しかし、安堵しすぎてはいけない。苦しい人生を送っているのがあなただけではないということは、誰もがあなたと同じような苦難を経験しているということだ。あなたが必死に生きた今日という日が、次は誰かにとっての厳しい戦場となるのだ。皮肉なことだが、だからこそ私たちはリスペクトを必要としている。
かつて、自らのゴールに到達したと思われたひとりのフットボールプレーヤーがいた。2000年代の中ごろ、彼はフランス代表で最も活躍していたルーキーであり、イスタンブールの奇跡として知られる大逆転劇で、リヴァプールにチャンピオンズリーグのトロフィーをもたらした英雄でもある。「ブロンドのひげ」でピッチを駆ける彼の名は、ジブリル・シセ。フットボールファンたちが、2000年代の中ごろのフットボールについて回顧する際には欠かせない存在だ。フットボールのピッチに登場したこの素晴らしいファッショニスタは、世界で最も流行に敏感な国であるフランスを代表する存在として知られていた。
彼の栄光と歓喜の裏には、絶え間ない苦しみと不屈の精神があった。2つの異なるリーグにまたがり、4度の得点王に輝いた彼だが、大きな負傷を2度経験した際には、3つの異なるリーグで4度もチームから放出されたことがあるのだ。シセのキャリアは、まるでジェットコースターのようだった。選手生命が終わりかねないケガからの再起を実現させた彼は、多くのフットボールプレーヤーが夢にしか見ることのできない舞台へと再びはい上がってみせた。そして彼のキャリアは今、フットボールの歴史にしっかりと刻み込まれている。
彼が経験した苦難について私たちが詳細に知ることはできないが、一つだけ確かなのは、彼が険しい上り坂を上り、苦悶の表情を浮かべながら下り坂を下ったということだ。そして、厚かましくも推測すれば、おそらく彼の人生は次なる目的地へと向かっている。人の一生とはそういうものなのだ。
Q:フットボールプレーヤーとしての最も大きなやりがいは?
A:ファンに感動を与えられることだね。フットボール、ファッションに限らず、自分を示すことができるものを通して自己表現をすることが好きなんだ。ファンのリアクションや、ピッチにいるときに聞こえる声は、私の胸を高鳴らせるよ。ストライカーならば、こうしたファンからの影響を必要としているはずだ。点を取れば彼らの元へと向かい、一緒に祝福するんだ。彼らはファンと交わるプレーヤーが好きなんだよ。そして逆に、彼らはたとえ調子の悪い日だってサポートしてくれるんだ。
20年以上にわたるキャリアを通して、私はずっとファンとの良好な関係を保ちたいと考えていた。彼らは私を後押ししてくれる存在だったからね。アディショナルタイムでヘトヘトになっても、決勝ゴールを奪いに攻守に奔走しなければならないときにパワーを与えてくれたのは、ファンたちだった。キャリア全体を通して彼らとの関係を保ち、つながっていることは私の最優先事項の一つだったんだ。試合後にファンと一緒にお祝いをして、彼らにユニフォームをあげる瞬間には喜びを感じていたよ。
Q:ファンと一体になっているときの気分はどんな感じ?
A:多くのファンが自分の名前のチャントを歌い、応援してくれているときの感情は言葉にすることができない。シンプルに素晴らしい気分になるし、思い出せる限りでは、ファンとこのような関係を築けたことを本当にラッキーだと感じているよ。
ゴールを決めてファンのリアクションを見るときはいつも、彼らの愛を感じるんだ。フットボーラーとして、点を取ることがいつもエキサイティングなのは当然だけど、自分だけが感じられるレベルの幸せは長続きしない。私が本当に深いレベルで幸せを感じるのは、その瞬間を分かち合えたときだ。特に土壇場でのゴールは素晴らしい。ただただ、ファンたちのもとに向かって走り出し、観衆に飛び込んで一緒に祝いたくなるんだ。その瞬間は本当に楽しいし、強く心を揺さぶられる。そして、それでファンたちの1週間が幸せで満たされることを知っているから、誇らしい気持ちになるんだ。
ときどき私たちフットボーラーは、結果やパフォーマンスのレベルが、ファンたちやその人生にどれほど大きな影響を与えるのかを忘れてしまう。週末にひどい負け方をしてしまえば、ファンたちは次の週に同僚とその話ばかりをしてしまうかもしれない。それがネガティブな影響を与えることもあるだろう。それを知っているからこそ、試合がある夜はいつでも、すべてを出しきらなければならなかったんだ。
Q:KOP(リヴァプールサポーター)との関係は?
A:KOPとの関係は大事にしていたよ。語り草になるほど伝説的なサポーターだったし、アンフィールドは世界で最もエキサイティングなスタジアムの一つだから、彼らのためにプレーすることを夢見ていたんだ。始めは順調だったけど、そこでひどいケガをしてしまった。なんとかピッチに戻ることができたけど、いつも陰で支えてくれたファンの存在がなければ、さらに時間がかかったか、あるいは戻ってくることができなかったかもしれない。子供の頃の夢は、プロになって1ゴールを決めることだった。実際は一つとは言わずゴールを決めることができたし、タイトルも獲得した。だけどチャンピオンズリーグでの優勝は想像を超えたものだったよ。トロフィーを手にして、道で祝う大勢のファンを見ながら、とにかくその瞬間を彼らと分かち合ったんだ。本当にみんなにトロフィーに触ってほしくて頑張ったけど、それは不可能だった。だけどその日、できるだけ多くのファンと交流することは個人的なミッションだったんだ。セレモニーが終わってみれば、半裸の状態だったよ。着ていたものはすべて脱いで、ファンに向かって放り投げたんだ。楽しくて、充実した1日だったよ。
Q:敵地のファンについてはどう感じていた?
A:対戦相手のファンの前でのプレーはあまり好きではないね。だけど一度だけ、ブラックバーンのファンをからかったことがあるよ。そのシーズンに私はひどいケガから回復して、ブラックバーン・ローバーズと対戦したんだけど、ファンたちが私の足について馬鹿げた歌を歌っていたんだ。もちろん試合中にね。彼らにとってはアンラッキーだったけど、私はその復帰戦でゴールを決めて、彼らに対してやり返してやったよ。楽しい瞬間だった。リスペクトを欠いていたわけではない。私とブラックバーンのファンはどちらも楽しんでいたんだ。
Q:フランス代表とはどんな意味を持つものだった?
A:代表に選ばれたときの気持ちは、格別なものだよ。自分の国、家族、友人、子供たち、そして自分自身を象徴するものだからね。子供の頃、ティエリ・アンリやジネディーヌ・ジダンのようなプレーヤーになることを夢見ていた。自国の8万人の観衆、そしてテレビの前ではさらに多くの人々が観戦していることを感じながら、血を流し、魂を捧げ、国のために身を投げ出さなければならない。41試合もフランスのためにプレーする機会をもらえたことは幸運だったし、常にベストを尽くしたと言えるよ。代表でプレーしていたときに再びケガをしてしまったけど、素晴らしいチームでプレーできたことをとても誇りに思っているんだ。
Q:代表での初ゴールはどんな気分だった?
A:あれは私の代表チームでの2試合目か3試合目で、相手はキプロスだった。アウェーゲームだったから、ファンたちと一緒に私の大好きなセレブレーションを派手にやることはできなかったけどね。だけど、重要な試合(EURO予選)でゴールを挙げて国に貢献することは、クラブでのゴールと比べることはできないけど、とにかく違ったものなんだ。とても誇らしい瞬間だったから、昨日のことのように思い出せるよ。
Q:人生で最初に設定したゴールは何?
A:最初の目標は、大観衆の中でユニフォームを身にまとい、ワールドカップでゴールを挙げるといったようなものだった。子供の頃はいつも、世間に自分ができることを示すために人前でプレーがしたかったんだ。若い頃から、ストライカーとしての役割をとても真剣に考えていた。他人の言葉に簡単に影響されないよう、努力もしていたよ。ゴールを奪えず、パフォーマンスが低調だった夜は散々に批評されることもあったけど、私がやるべきことは、次のゲームに集中することだけだった。そして私はそれを実践していたんだ。ストライカーもゴールキーパーも同じだね。役割こそ正反対だけど、ゲームに向かう際の気持ちは同じであるはずだ。そうした態度やメンタリティが、スコアラーとしての良い仕事を後押ししてくれたよ。
Q:フットボールで味わった最高の思い出は?
A:子供の頃のフットボールにまつわる最高の思い出といえば、友達と公園やストリートで遊んだことだよ。1ゲームで10~15ゴールは決めていたね。他の多くの子供たちと同じように、9歳の男の子ができる最大限のプレーをして、すごく楽しんでいたんだ。毎晩とても誇らしい気持ちで家路についていたことを思い出すよ。
プロとしてのキャリアの中で選ぶとすれば、リヴァプール時代にチャンピオンズリーグ決勝でACミランを相手にPK戦を制した瞬間だろうね。そのわずか5か月前、私は満足に歩くこともできなかったんだ。シーズン序盤にケガをしてしまったけど、どうしてもシーズンが終わる前にあのチームの一員に戻りたかったから、できることはすべてやったよ。そして監督が私のところにやってきて、「ジブ、PKを蹴ってくれ」と言われたときには、「はい」と即答して、PKを成功させた。とてつもなく大きな瞬間で、そのときの気持ちを言葉にするのは難しいよ。あの試合が特にクレイジーなゲーム展開で進み、結果としてクラブが到達しうる最高のタイトルの獲得に貢献できたことだけでなく、ケガで苦しんでいる期間に支え、励ましてくれた家族や友人、そしてファンたちの存在があったからね。彼らには心の底から感謝しているよ。
Q:ファンたちが与えてくれるものを、3つの単語で表すとすれば?
A:勢い、底力、愛
Q:子供たちもフットボールを?
A:息子たちはフットボールを愛していて、プレーもしているよ。私がフランス代表やリヴァプール、また他のクラブでプレーする姿を観に来たこともあるんだ。そしてもちろん、彼らは私のようになりたいと思っているよ。簡単な道のりではないことは伝えてあるけどね。ハードワークをして、自分がやりたいことにフォーカスする必要があるだろうね。
Q:子供たちがゴールを決めたときにはどんな気分になる?
A:自分のとき以上に感動するよ。喜びが溢れるんだ。彼らは僕の一部だからね。彼らは僕の血を受け継いだ、僕の息子たちだ。カシアスやプリンスのゴールを見るのは、自分自身のゴールよりももっとエキサイティングなことなんだよ。
Q:彼らには同じ道を歩んで欲しい?
A:そうは思わない。今でも彼らのプレーを見るときには、一歩引いて静かに観戦するように努めているんだ。ゲームの最中に子供たちやレフェリーに大声をあげて、怒り狂うような親にはなりたくないからね。試合が終われば私が感じたことや、様々なシチュエーションで、どのようにすればもっと上手くいくのかを語りはするよ。
ただ、フットボールにこだわる必要もないと思っている。彼らがそれを望んでいるのなら、自ら決断するだろう。私がとやかく言うことじゃない。今のところ彼らはフットボールを愛していて、プロのフットボーラーになりたいと思っているよ。だから私は、できる限り精一杯のアドバイスをしてあげているんだ。だけどもし、カシアスやプリンスが明日私のところにやって来て、「フットボールをやめてテニスがやりたい」と言ってきたとしても、いいと思っている。たとえ何だったとしても、彼らが追求する分野の中で偉大になるために情熱を注げるのであれば、私は彼らを応援するし、できる限りのサポートをしたいと思っている。その気持ちに偽りはないよ。
Q:フットボール選手としてのキャリアが終わった今、次なるゴールは何ですか?
A:フットボールをやらなくなった今、私の情熱は音楽に向けられていて、新たなゴールはDJとして音楽業界に名を残すことだね。今のところは、とてもうまくいっているよ。大きなフェスやクラブでパフォーマンスを披露することもできたしね。誰かに幸せを与えられて、楽しい時間を共有できるといった点では、フットボールと同じくらいやりがいがあることなんだ。
Q:フットボールの観衆とナイトクラブの客たちに、共通点や相違点はある?
A:とても似ているよ。私がパフォーマンスを見せれば、彼らはエネルギーと愛を私に返してくれる。フットボールの観衆と同じようにとても反応が良くて、つながりを感じることができるんだ。だけど、私の仕事は違う。フットボールのピッチの上では、私は11人のプレーヤーの中のひとりだから、調子が良くない日には私の代わりが存在している。だけどDJはひとりでやる仕事だから、すべてのステージで良い状態である必要がある。ブース内でのパフォーマンスだけでなく、ステージ外で多くの準備に時間をかけることも要求されるんだ。様々な曲を聴いて、自分のミュージックセレクションを作成することに1週間をまるごと費やしているよ。
Q:DJをやっていて最高の瞬間は?
A:自分を表現しながら、人を楽しませることができる最高の職業だと思うよ。自分の視点や音楽を人と共有するのが好きなんだ。ステージ上でDJブースの前に立っているとき、私たちはお互いのことを知らなくても一つの大きなファミリーになって、一緒に同じ瞬間を楽しむことができるんだ。私が彼らに愛を与えれば、彼らは愛を返してくれる。私が誰だか分からない人もいれば、フットボール選手としての私の名前を聞いたことがない人もいるだろうが、そんなことは関係がない。最高の時間を共にすれば、彼らはつかの間でも私のことを覚えてくれるだろう。そうなれば、私の任務は完了なんだ。